英語は難しいですね。どれほど勉強しても、しばらく英語から離れるとたちまち元の木阿弥になってしまう。それに、どれほど勉強し続けても言葉の勉強には終わりということがないのでどうしても途中でめげてしまう。まあ、考えてみれば、母国語である日本語ですら本当に思い通りには使いこなせないんですから、ましてや外国語の英語がいつまでも使いこなせるようにならないのも無理はない。あんまり神経質にならないで、まあ、ある程度使えればそれでいい、これからは少し気軽に、そして楽しみながら学んでいこう、と、最近はようやくそう考えられるようになってきました。それで、面白そうな、そして興味の持てそうな映画を選び、それを楽しみながらまた少し英語を学び直してみようと思い、まずは、『カサブランカ』を選んだという訳です。
久しぶりに『カサブランカ』を観直して見ると、なかなか面白い。やはり名作だと思います。言葉の使い方もしゃれたものが多くて楽しめる。内容も戦時下の恋ということで適度にシリアスで適度に甘い。そんなせりふの中からこれはと思うものを選んで覚えてみることにしました。
───まずは、戦争中ということもあって、勝ち負けに関係する表現を一つ。エチオピアで銃の密輸に関わり、スペインでは共和国政府側について戦った(fought in Spain on the Loyalist side.)こともあるというリックの過去の経歴に、カサブランカの警視総監であるルノーが触れた折に、リックが、
And got well paid
for it on both occasions.
(その両方でよく稼がせてもらったよ)
と言うと、それに対してルノーが
The winning side would have paid you much better.
( 勝った側についていれば、もっと儲かっただろうにね。)
と応じる。
ここでついでに、過去の事実に反する仮定法:would + have + 動詞の過去完了形の再確認 (残念ながらいつまでも仮定法が自由に使いこなせるようになりません...)
また、この映画に出てくるdogに関係する言葉に、
underdog (負け犬、生存競争の敗残者)や、
watchdog (番犬、監視者)がある。
[ 参考:その他、犬に関する表現には、
a police dog (警察犬),
an army dog、a military dog, k9 dog (軍用犬)
a guide dog (for
the blind) , a Seeing Eye dog(米) (盲導犬)
collar (首輪)
lead (引きひも)
He dogged her
steps. (彼は彼女を尾行した。)
Don’t be a dog! (卑怯なまねはよせ。)
諺:Every dog has his day. (だれにでも一度はよい事がある。)
Let sleeping dogs
lie. (やぶへびは禁物。) などがある。]
───それから、ナチスドイツ軍の少佐シュトラッサーに
What is your
natinality? (国籍はどこか)
と聞かれて、リックは次のように答えて問いをはぐらかす。
I’m a drunkard. (大酒のみです)
それを聞いた警視総監ルノーが笑いながら
And that makes Rick
a citizen of the
world.
(つまり、それでリックも世界市民ということですな。)
と、リックの答えを巧みに引き取る。
───リックが経営しているカサブランカの「リックス・カフェ・アメリカン」の店内で、久しぶりに会ったピアニストのサムに向かって、イルザが、
It’s been a long
time.(ずいぶん久しぶりね。)
というと、サムが
Yes, ma’am. A lot of water under the bridge.
(そうですね。その間、いろいろなことがありました。)
[この元の文は、A lot of water has flowed under the bridge.]
と、少し意味深げに答える。
ところで、マーク・ピーターセン著『続日本人の英語』によれば、この表現にはもっと深い意味が含まれていて、それは、橋の下の水が流れ去って二度とは戻らないように、わたしたち(暗にリックとイルザと)の関係も以前の状態には二度と戻りませんよ、ということを言っているのだそうです。こういった、言葉の表面には現れない深い意味はネイティヴ・スピーカーに指摘してもらわない限り分からない。同じ著者による『心にとどく英語』にもこのほか多くの参考になる例が紹介されています。
───この後、イルザからリックについていろいろと聞かれて下手な逃げを打つサムに、イルザが言う。
You used to be a much better liar, Sam.
(以前のあなたはもっと嘘が上手だったのにね、サム。)
それに対して、サムが思い切って言う。
Leave him alone,
Miss Ilsa. You’re
bad luck to him.
(彼をそっとしておいてあげてください、ミス・イルザ。あなたは彼に不運を招くお方です。)
───この後、イルザがサムに昔懐かしい歌“As Time Goes By「時の過ぎ行くままに」”を弾いて、と頼む。
いったんサムは、I’m a little rusty on it.(ちょっと自信がないんです)と言って断ろうとするが、
I’ll hum it for
you.(ハミングしてあげる)と言って、ハミングを始め、さらに、Sing it, Sam.(歌って、サム)と迫る。
そして、とうとうサムが歌い始めた歌詞の中に、次のようなくだりがある。
the fundamental
things apply
...as time goes by.
(基本的なことは同じ...時が過ぎても。)
それから、次のようなくだりもある。
No matter what the
future brings... (将来何が起きようとも...)
───やがて、リックとイルザが再会する。そして、二人が最後に会った日のことが話題となって、リックが言う。
Not an easy day to
forget.
(簡単に忘れられる日じゃないさ)
さらに付け加えて言う、
I remember every
detail
(どんな些細なことでも覚えている。)
このせりふには、リックのイルザに対する気持ちがよく表れている。
───リックの回想の中
モンマルトルのカフェ「ラ・ベル・オロール」の店内で。
アンリがドイツ軍のパリ侵攻にからめてシャンパンについて語ったことを、リックがサムとイルザに向かって話す。それに対してサムが応じたことばにリックは賛意を表わし、それからイルザと乾杯する。その時ふたたび使われる───あまりに有名なせりふ!
You said it. Here’s looking at you, kid.
(まさにその通り。君の瞳に乾杯)
参考: Here’s to your health! [ 君の健康に(乾杯)。]
やがてイルザが、リックに話すことのできない事情を胸に秘めた複雑な心境の中で、リックに向かって言う言葉。
I love you so
much...and I hate this war so much. Oh, it’s a crazy world. Anything can happen.
(とても愛してるわ...そしてこの戦争がとても憎い。ああ、おかしな世界ね。何だって起こりかねない。)
───ふたたびカサブランカ。
夜遅くリックに会いに来たイルザが、リックのカフェの薄暗い店内で、昔の自分にとってリックがどのような男性であったかを語る言葉。
He opened up a whole beautiful world full
of knowledge and thoughts and ideals.
Everything she knew
or ever became was because of him.
(彼は知識と思想と理想に満ちた美しい世界のすべてを教えてくれた。彼女の知識も人間性も彼のおかげなの。)
しかしこの後、リックはイルザを暗に娼婦になぞらえたむごい発言をすることによって、イルザを耐え難い思いにさせてしまう。
───翌日、リネンを売る露店で、リックはイルザになぜパリで自分を見捨てたのかその理由が聞きたいと言うが、昨夜のリックにすっかり失望してしまっているイルザは話そうとしない。そんなイルザに向かって、リックが次のように言う。
I
think I’m entitled to know. (俺には知る権利(資格)があると思う。)
この表現は動詞の部分をさまざまに変えていろんな場面に使えそう。
───アニーナの恋人のヤンにルーレットで稼がせてやったリックに対して、ルノーが言う言葉。
You’re a rank sentimentalist.
(君はまったくのセンチメンタリストだな。)
rank:口語で「最高の」という意味。
───イルザに向かって、ナチスドイツ軍の少佐シュトラッサーが言う言葉。
My dear
mademoiselle, perhaps you have already observed that in Casablanca, human life is cheap.
(いいですか、マドモワゼル、たぶんすでにお気づきでしょうが、カサブランカでは人間の命は安いものです。)
戦争というもっとも反本質的な状況下にあっては、貴い人間の命も安っぽいもののように扱われてしまう。
───リックがイルザに、イルザの夫である反ナチのリーダー、ビクター・ラズロの偉大さなどについてまた聞かなければならないのか、等と言ったときに使ったせりふ。
What an important
cause he’s fighting for?
(どんなに重要な目的のために彼が戦っているのかということ、を。)
それに対してイルザが、それは昔あなたの目的でもあったわ、と言う。しかし、リックは自分はもう何のためにも戦っていない、と突き放すように応え、さらに、
I’m the only cause I’m interested in. (興味のある目的は、自分だけさ)
と言い捨てる。
───リックが疑り深い様子で、ラズロがイルザを本当に愛しているのかどうか確かめようとしてたずねた問いに、ラズロは次のように答える、
Apparently you
think of me only as a
leader of a cause.
Well, I’m also a
human being. Yes,
I love her that much.
(どうやら、私を活動指導者としてしか考えていないようですね。私だって人間です。ええ、私は彼女をとても愛しています。)
───いわく付きの通行証を使ってイルザと一緒にカサブランカを脱出するつもりだと説明したリックに、ルノーが次のように言う。
...you
were never interested in any woman.
(君はどんな女性にも決して関心を持たなかったじゃないか。)
すると、リックが答える、
Well, she isn’t
just any
woman. (彼女はただの女性ではないんだ。)
───夜の飛行場で、それまでリックと一緒に飛び立つものとばかり思っていたイルザが、いよいよという時にリックから、ラズロと一緒にリスボン行きの飛行機に乗り込むように言われて、思わず次のようにたずねる、
What
about us? (私たちはどうなるの。)
リックがそれに答えて言う有名なせりふ。
We’ll always have
Paris. (俺たちにはいつだってパリの思い出がある。)
───さて、それから空港でいろいろなやり取りがあって、いよいよ最後の別れとなったときに、思いを込めてイルザがリックに告げる別れの言葉。
Goodbye, Rick. God bless you.
(さようなら、リック。 お元気で(あなたに神の恩寵がありますように)。)
イルザのこの最後の言葉がこの映画のクライマックスを形作る。このささやきによってイルザとリックとの間に日常的な時間性を超えた真実のいのちの流れすなわち永遠が立ち現れる。イルザの深い真情が、抑制されたこのささやきの中に溢れ、それがそのままリックの心に伝わる。この短いささやきの中に、パリでの出会いからカサブランカでのこの別れの時に至るまでの、イルザの心の奥深く秘められたリックに対する心情のすべてが込められている。みずからそうと決め、そのお膳立てもした辛い別れの場で、愛する女性から、このような、二人の間にだけ通い合う真情あふれる言葉を囁かれたなら、もう誰も何も言うことはないだろう。
これは、この映画の中でイングリッド・バーグマンが最も美しく輝いて見えるシーンの一つだと思う。ハンフリー・ボガートもいい。
───Louis, I think this is the beginning of a beautiful
friendship
(ルイ、これが美しい友情の始まりのようだな)
これは、リックが、自分とルイがブラザヴィルにいる自由フランスの守備隊まで一緒に行くことになったことに気が付いて言う言葉。
この最後のせりふでこの映画は後味のいい見事なハッピーエンドを迎える。